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さて、めぐみは行ってしまったし、これからどうしよう……と藍子は考えた。
藍子は飲んでいたレモネードの中の氷をストローでかきまわしながら、そっとカウンターの方を見た。
めぐみは藍子が龍司に見とれていると勘違いしていた。
別に見とれていたわけじゃないけど……と藍子は心の中で呟いたが、龍司の素性が気になるのは確かだった。
自分の大好きなアドラーのリズに似ている男だ、気にならないわけがない。
カウンターの久住と龍司の会話に聞き耳を立ててみると、二人は仲が良いらしい。
藍子のバイト先の占いサロンはこの『Penny Lane(ペニーレイン)』の上にあり、藍子は占いのバイトを始めてから、店の常連になっていた。マスターの久住とも仲良くなっている。
久住に話しかけて二人の会話に入ることもやろうと思えばできる。
ただ、そう思うのは簡単だが、行動に移すだけの勇気はなかなか出て来ない。
「――藍子ちゃん、友達帰った?」
急に話しかけられ、藍子は慌てて後ろを振り返った。バーのマスターの久住がいつの間にか藍子の後ろに立っている。
薄れていた「アンジェリーク」の香りが濃くなった。
久住は実家がプロテスタントの教会らしく、心の中の声が聞こえない人間の一人だった。
「はい、これから他の友達と待ち合わせみたいなんです」
藍子は笑顔で答えた。
心の中の声が聞こえない人間だからという理由以上に、藍子は久住に好感を持っていた。店のドアにポスターが貼ってあることでもわかる通り、久住も藍子の大好きなアドラーのファンなのだ。
藍子が初めてこの『Penny Lane』に顔を出した時、同じアドラーのファンと言うことで二人はすっかり意気投合した。久住は藍子が一番好きなアドラーの曲を店内に流してくれたりもした。
「そう。じゃあ、藍子ちゃん、まだ時間ある?」
「はい」
「ちょっと紹介したいヤツがいるんだけど……」
久住は藍子をカウンターに連れて行った。そして、藍子を龍司の隣に座らせた。
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