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「藍子ちゃんも龍司も、この店に初めて来た時、最初にリクエストした曲、覚えてる?」
藍子と龍司が一通りあいさつし終わると、カウンターにいる久住が言った。「アドラーの『Rain(レイン)』だろ? しかも、俺が『この曲、好きなの?』って訊いたら、『自分の葬式で流したいくらい好き』って、まったく同じこと言ってたし」
久住の言葉に、藍子は思わず龍司の顔をまじまじと見つめた。
藍子が占いのバイトを始めた頃、初めてこの『Penny Lane』に来た時のことは良く覚えている。
同じイギリスのバンド「アドラー」が好きだということで意気投合した久住に、藍子はアドラーの名曲である『Rain』を店内に流してもらうようにリクエストした。
確かにその時、藍子は「『Rain』は自分の葬式で流したいくらい好きな曲」と言った。
そう言えば、自分の発言に久住はビックリした表情をしていたっけ、と藍子は思い出した。
つまり、自分よりも先に「葬式で流したいくらい好き」と言った人間がいて、自分が同じことを言ったから、久住はビックリした表情をしていたのだ……。
龍司も藍子と同じように驚いた表情をしていた。
「アドラー、好きなんだ、意外な感じがするけど。アドラー、二十歳以上は年上なんじゃない?」
龍司が隣の藍子の顔を覗き込むように言った。藍子はさっき自分が「キレイ」と言った瞳をより間近で見て、一瞬ドキッとした。
間近で見ても、龍司の瞳はやっぱりキレイだった。
「すごく世話になった人がいるんですけど、その人がアドラーのファンで、その人に薦められてから好きなんです」
藍子にアドラーを薦めたのは、藍子の初恋の人である須佐だった。須佐はアドラーと同い年で、アドラーがデビューした時からのファンだと言っていた。
「俺も人に薦められて好きになったんだ。イギリスに『はとこ』がいて、家にホームステイに来た時に薦められて、それから好きなんだ」
「そうなんですか?」
藍子と龍司の会話はアドラーの話をきっかけに、どんどん盛り上がっていった。
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