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1.『Penny Lane(ペニーレイン)』での出逢い
N市の駅近くにあるバー、『Penny Lane(ペニーレイン)』。
バイト帰りの更科藍子は、『Penny Lane』のテーブル席で同じ大学の友達のめぐみと一緒におしゃべりをしていた。
(――もう、今日で終わりだな)
おしゃべりに夢中になっていた藍子の頭の中に、不意に後ろから「声」が飛び込んで来た。
藍子が反射的に後ろを振り返ると、どこにでもいるような若いカップルがレジで会計をしている。
カップルは会計を済ませると、笑顔で何かを話しながら店を出て行った。
あのカップル、一見すると、どこにでもいるような普通の恋人同士にも見える。
でも、男の方は心の中で(――もう、今日で終わりだな)と確かに言っていた。
(――あの二人、このあと別れちゃうのかな)
藍子はため息を吐いた。
自分はまた、知らなくても良い他人の心の中の「声」を聞いてしまったんだ……。
藍子は中学二年生の時に交通事故で頭を打って以来、何故か「他人の心の中の声」が聞こえるようになってしまった。
藍子は自分の他人の心の中の声が聞こえることを「特殊な体質」と呼んでいて、普段は心の中の声が聞こえないように注意して生活している。
でも、ふと気を抜いた瞬間、さっきの男のように他人の心の中の「声」が聞こえてくるのだ。
藍子は他人の心の声が聞こえる度に、悲しい気持ちになってしまうのだった。
本当は他人の心の中の声なんて聞きたくない。
不意に心の中の声を聞いて、今のようにイヤな気持ちになったり傷付いてしまったことが数えきれないほどあるのだ。
どうしたら、自分の特殊な体質が治るのだろうか。
どうしたら、他人の心の中の声が聞こえなくなるのだろうか……。
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