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野菜サラダは涙味
「貴方がいつも忘れないように。」
彼女はいつも赤い付箋にメモを取る。
そして決まって取ったメモを僕に渡すのだ。
僕は無言で受け取ると、静かにお辞儀をした。
これが僕らの当たり前。平和な、日常。
「はい、貴方。」
彼女はオレンジの水玉の皿にこんもりとサラダを盛る。載せすぎてもはやサラダの下に皿を添えているようだった。
僕はそれを他所に肉料理を食べる。
すると彼女が顔を覗き込み「野菜も食べて」と声を上げる。
僕は彼女をじっと見つめた。
「これくらい満遍なく食べた方がいいわ。」
彼女は僕に野菜入りの皿を渡すと、黙々とご飯を食べ出した。
僕も渋々それを食べた。
眠りは浅く、月日は短く、何よりも単調な毎日。
しかし、あっという間であり、今ならそれは小さな幸せだったと思うんだ。
僕は無力だ。愚かだ。馬鹿だ。
嘆いても返ってはこない。彼女の他愛もない一言も、一言に連動して淡々と行われるお節介も、一緒に過ごせたあの日々も。
思い出は儚くも繊細に僕が望んだものを映し出す。
優しくも淡い蒼と、冷酷で重厚な緋を。
当たり前が当たり前である事を誰よりも望んだのは僕だったのだ。
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