ペンギンの世界

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 しかし、どう統一されたというのか?  言葉が通じるというだけであればそれは統一とは程遠い。 統一という言葉を選らんだ学者だか、政治家だかは余程の愚者であったに違いなく、またその取り巻きも同様であっただろうことは容易に推察できた。 きっと奴らは辞書があれば言葉なんて簡単に伝わるものだという愚かな考えを持っているのだろう。 言語とはもっと奥ゆかしく、翻訳しがたい威厳を持っているのである。 特に我らが種族、ペンギンの言語はまさにその代表であり、その真意までも他の種族が理解できているとは思えない。 言語の統一とは名ばかりで、ただ単純な意図が通じるようになっただけ、というのが実情であろう。  我は義憤と諦観を背負いひとり雪で覆われた透明な大地、バイカル湖の氷上を歩んで観測拠点に向かっていた。 湖から上がったばかりの羽毛は表面に若干の水分を含んでいたが、極寒の突風のひと吹きで直ぐに氷へと変わり、氷の粒だけが風に運ばれて何処かに流れていった。 冬至にはまだ遠いがこの地域の冬は寒い。人間と違って寒さに耐えられないわけではないが、暖かい場所にいることに越したことはない。 我は足場の水平性を確認し、腹ばいになった。
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