ペンギンの世界

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「ただいまー」(帰還した) 「あら、一号さん。おかえりなさい。ちょっと吹雪いてきましたね、寒かったでしょう?」それまでしていた作業を停止した成瀬女史が振り返る。 「そんなにー」(我は誇り高いペンギンであるが故、この程度の寒さは取るに足らない) 「もー、強がっちゃって。カメラを頂戴、こっちで解析しておくからその間ストーブで温まってていいよ」 「やったー。なるせさん、ありがとー」(成瀬女史の心遣いに甘んじさせてもらうとしよう。感謝する)  我の言葉が成瀬女史にどのように伝わっているかは分からないが、その優しげな反応から察するに十二分に洗練された誠意は伝わったようである。 背中を向けて背負っていた調査用のカメラの付いたバッグを取ってもらう。  成瀬女史は勤勉で優秀な女性である。 成瀬女史の本来の言葉は理解できないが、業務指示の意図の明快さや彼女がこなす仕事の複雑さから察するに、きっと人間の中でも相当に優秀な存在であろう。 また、種族を異とするにもかかわらず、我々に対する待遇も良く考えてくれている。 例えば漁協と交渉して我々ペンギンの食料としてバイカル湖のオームリの捕食権を勝ち取ってきてくれた。 信頼すべき良い人間であることに疑いはない。
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