3人が本棚に入れています
本棚に追加
「....ま、.....さまっ」
肩を強く揺さぶられる。
せっかくの休日だというのに、誰が独り身のOLを起こしになんて来るのだろう。
「わかったからゆっくりさせ...」
あれ?
目に飛び込んできたのは、見知らぬ女性の顔。40代後半から50代と見る。
「姫様!」
「はあ?」
突然、ずしっと体に衝撃がやってきた。
「あの...」
重いんですけど。
そんな呻きもかき消してしまうくらいに、女性の泣き具合が激しかった。
「このまつ、姫様の輿入れ前に何かあったとあらば...もう...」
ああ、夢か。
そう考えると、見慣れない部屋の様子も、この女性の言葉遣いも、女性の着物にも合点がいく。
だとするとこの女性は「姫様」の乳母だろうか、なけなしの知識をフル活用する。
いつも見る夢よりもリアルな気もするのが、気になるところではある。
「なあまつ」
落ち着けと声を掛ける前に、冷静な返事が返ってきた。
けだるさを覚えながらも体を起こすと、女性はしっかりと布団の脇に控えていた。
鼻をすすりながらも、すでにその瞳は乾いていた。
「すまないが、これはどういうことじゃ」
使い慣れない言葉遣いにこそばゆい思いもしたが、それは正解だったらしい。
「こちらへ」
心地いい音を立てて開けられた障子の先には、桜が植えられていた。
「綺麗」
小さく弱々しくも見える木ではあるが、あと一月もすれば愛らしい花を見せてくれそうである。
「そこまでお気に召したのであれば、持って行かれますか?」
何処へ?
沈黙を困惑と受け取ったのか、女性はこちらを振り返って、意味ありげな表情を見せた。
その瞳の感情を表現するとすれば、哀れみ、だろうか。
ここにおいて私はたいそう尊敬されているらしく、すれ違う人々に丁寧に頭を下げられる。
困惑しながらも、悪い気はしなかった。
「これは?」
女性に連れられるまま、長い廊下を歩いてたどり着いたのは、ひとつの部屋。
狭いそこには、豪勢な着物と家具類?
「姫様は一月後、隣国への輿入れが決まっておりますゆえ」
解放されたかのように話すのは、どうやら相手のことらしい。
でも
「まったくわからないわ」
「そうでしょう」
だって、これは夢だから。
「姫様は嫁入りを告げられて半年、ずっと眠っておられましたから」
最初のコメントを投稿しよう!