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「....ま、.....さまっ」 肩を強く揺さぶられる。 せっかくの休日だというのに、誰が独り身のOLを起こしになんて来るのだろう。 「わかったからゆっくりさせ...」 あれ? 目に飛び込んできたのは、見知らぬ女性の顔。40代後半から50代と見る。 「姫様!」 「はあ?」 突然、ずしっと体に衝撃がやってきた。 「あの...」 重いんですけど。 そんな呻きもかき消してしまうくらいに、女性の泣き具合が激しかった。 「このまつ、姫様の輿入(こしい)れ前に何かあったとあらば...もう...」 ああ、夢か。 そう考えると、見慣れない部屋の様子も、この女性の言葉遣いも、女性の着物にも合点がいく。 だとするとこの女性は「姫様」の乳母だろうか、なけなしの知識をフル活用する。 いつも見る夢よりもリアルな気もするのが、気になるところではある。 「なあまつ」 落ち着けと声を掛ける前に、冷静な返事が返ってきた。 けだるさを覚えながらも体を起こすと、女性はしっかりと布団の脇に控えていた。 鼻をすすりながらも、すでにその瞳は乾いていた。 「すまないが、これはどういうことじゃ」 使い慣れない言葉遣いにこそばゆい思いもしたが、それは正解だったらしい。 「こちらへ」 心地いい音を立てて開けられた障子の先には、桜が植えられていた。 「綺麗」 小さく弱々しくも見える木ではあるが、あと一月(ひとつき)もすれば愛らしい花を見せてくれそうである。 「そこまでお気に召したのであれば、持って行かれますか?」 何処へ? 沈黙を困惑と受け取ったのか、女性はこちらを振り返って、意味ありげな表情を見せた。 その瞳の感情を表現するとすれば、哀れみ、だろうか。 ここにおいて私はたいそう尊敬されているらしく、すれ違う人々に丁寧に頭を下げられる。 困惑しながらも、悪い気はしなかった。 「これは?」 女性に連れられるまま、長い廊下を歩いてたどり着いたのは、ひとつの部屋。 狭いそこには、豪勢な着物と家具類? 「姫様は一月後、隣国への輿入れが決まっておりますゆえ」 解放されたかのように話すのは、どうやら相手のことらしい。 でも 「まったくわからないわ」 「そうでしょう」 だって、これは夢だから。 「姫様は嫁入りを告げられて半年、ずっと眠っておられましたから」
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