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「わーわーわー、香織、理絵が変な言葉、覚えるだろ!」
母は父を睨みつけ攻める様に言う。母の怒りは静まる事を知らない。
「ってことは、洋介は変な店に行った自覚はあると?」
「何故、そうなる!俺はただ………」
悟はこれから起こる夫婦喧嘩を察知したように食器をそそくさと片付け、理絵を連れ、逃げるようにリビングへと退散する。
争いの火種を産んだ悟だったが大人同士の争いには参加できない。
次の日、悟が起きて、リビングに行くと父と母は普段通りに接していた。
仲直りをしたんだと悟は安心する。
やはり、父と母がぎくしゃくしていると子供は落ち着かないものだ。
まぁ、事の元凶は悟自身にあるのだが…
二日後、いつも通りに家に帰ると、父と理絵は既に家にいた。
だが、そこには母の姿はなく、帰宅したばかりの悟に父から思わぬ事実を聞かされる。
「悟、香織が倒れたらしくて…今すぐ病院へ行くから準備しなさい」父も冷静さを欠いて動揺していた。
小学生の悟でも父のその動揺っぷりから大事だと気付かされる。
能天気な理絵さえも事の重大さは分からないまでも不安気な顔で目には涙を溜めながら「ママ、ちんじゃうの?」と父に尋ねていた。
父は理絵の言葉も耳に入らないほどいそいそとボストンバッグに衣服などを詰めていた。
次第に理絵が泣き出す。
理絵の鳴き声が悟にも移りそうになるが、悟は何故か泣いてはいけないと思い、ぐっと涙をこらえて父の支度が終わるのを待つ。
父が運転する黒のファミリーカーに揺られながら、悟と理絵の三人は母のいる病院へと向かう。
さすがに泣き疲れたのか理絵は目を閉じ、眠っていた。
「なぁ、お父、お母はなんで倒れたん?」悟は後部座席の真ん中から顔を出して、運転している父に訊く。
「お父さんもわからへん」父は真剣な面持ちで運転していた為、これ以上話し掛けてはいけないと思い、悟は大人しく後部座席に座りなおす。
しばらくして父が運転する車は病院に着いた。
父が後部座席で寝ていた理絵を起こし、三人は病院へと入っていく。
理絵を抱きかかえた父が受付カウンターで母の病室を訊き、走ってエレベーターに乗り込む。
悟も父についていく。
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