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母の病室に着き、父が乱暴に扉を開くと母が白いベッドの上にいた。
母が父に気付くとベッドを起こし「私……末期のがんらしい……」父は固まっていた。
母は涙目になりながらも我慢していた。
悟と理絵には何のことかさっぱりと言う感じだった。
「なぁ、お父、まっきのがんてなに?」父は悟の言葉に正直に答える。
「ママ死んじゃうんや……うっ!」父が本当の事を言うと母が父に掛け布団の間から蹴りをかます。
「ママがちんじゃう……わぁぁぁぁぁぁあん」理絵は衝撃の事実に泣きわめく。
悟は声を押し殺して泣くのを我慢していた。
ほら見たことかと母はやれやれと言った感じで父を睨みつける。
理絵の泣きわめく声が耳につく。
母が父に「まぁ、私が死んでも悟らの事頼んだよ。例の浮気した女とくっついてもええけど子供の事はしっかりな」言い残すようにして父に言う。
「まだその話してんのか。いや、だから、あれは悟の勘違いで俺が愛してるのは香織だけや!」真剣な面持ちで父がそう言うと医者が病室に入ってくるなり話始めた。
「お母さんは過労ですよ。ちょっと頑張り過ぎたみたいですね」父の顔が間の抜けた顔をする。
医者が悟と理絵に向かって言う。
「ママは死なんよ~」悟と理絵の頭を撫でて言うと医者は病室を去る。
理絵は泣き止むが悟は安心からか我慢していた涙が静かに流れ落ちる。
父は母に確認するように訊く「え、嘘なんか?」母が頷くと父は安堵感から腰が抜ける。
母が父の頭を撫でて「私も愛してるで」と満面の笑みで言った。
「悟も理絵もこっちおいで」母は悟と理絵を抱き寄せて慰める。
母は悟と理絵のお母さんである前に一人の女性なのだ。
その為に父の愛をこういった形で証明したに過ぎない。
小学生ながら悟は父と母のこんな姿を美しくも思った。
悟は自分も大人になったらこういう愛に飢えない家族を築きたいと。
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