風邪気味の僕と冷めたブレンド

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風邪気味の僕と冷めたブレンド

 喉の奥にスナック菓子の粉があるような違和感と熱っぽい体、それでも家にいても仕方がないと外にでた日曜の午後。  行きつけの喫茶店まで足を延ばす気力もなく、近所に新しく喫茶店がオープンしたのをふと思い出しそちらにいく。  新装開店を祝う花が残るガラス戸をあけ、若い店員にコーヒーを単品で頼む。パソコンを開き文章を綴ろうとするが、薄靄がかかったような頭と隣に座った賑やかな家族の会話を普段以上に拾ってしまう耳はそれを阻害する。  5分以上何もしない時間が続き、コーヒーに口をつけていないことに気がつく。湯気の立たなくなってしまった黒よりは茶色に近いそれに口をつけた。  一人に、なってしまった。中学生の時から四人でやりたい音楽をやってきたのに。お前らとは心の奥の奥から繋がっていて、売れないバンドだったとしても音楽に全てを賭けていく、そういう人生ではなかったのか。いや、薄々は気づいていたのだ。みんなにそういう明るい面だけを求めて、現実に目を向けていなかったのは僕だと。両親にぬくぬくと育てられる時期から一人一人で社会の荒波に立ち向かう時期へと変わっていくものなのだと。  木漏れ日のさすベンチに腰掛け、ぼうっと過ぎ行く雲を見やる。ふんわりと春風が土の匂いを運んでくる。親を安心させ、生活するために、勉強ばっかしてきた奴らにへこへこする人生なんてまっぴらごめんだ。この頃はやっすい居酒屋でそんな話ばかりをしていた。こういう話が出る時点で、現実に目を向けるべきだったのだ。酒の勢いで4人の人生を決めることなんて不可能だったのだ。責任なんて取りようがない。  売れないバンドのままで生活することなんて不可能なのだから。  夜寝る前は決まって急に大手音楽会社に目をつけられないか、そんな妄想だけを頼りに目を閉じていた。脳内だけで勝手に進んでいく夢物語が明日には現実になると考えていた。それが妖精の尻尾だと気づくことはできたはずなのに。  太陽がボール遊びをするいたいけな小学生を照らす。お前らはこうなるなよ。そう感じてしまう、大木の影の中。 そんな味がした。
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