きぐるみくんとの生活

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桜の咲く頃、就職をしに上京してきた私は東京の家賃の高さに一人暮らしを早々と諦めルームシェアをすることにした。 私のシェアメイトは18歳の男の子ということなのだが、何故だか彼はきぐるみを着ている。 そのため、シェアメイトながらも彼の名前を知らない私は、彼をきぐるみくんと呼んでいる。 彼は、沢山のきぐるみを持っているらしく日によってうさぎだったり、クマだったり、さるだったりときぐるみの動物がかわっていく。 食事を共にする時でさえ、きぐるみを着たまま食べている。 私が起きる頃には、彼はもうきぐるみを着ているので顔を見たことがない。 ある日、彼に聞いてみた 「きぐるみくんは学校とかその格好で行ってるの?」 きぐるみを着ていてわからなかったがたぶん彼は、少し戸惑った様子だった。 「あの…きぐるみくんって誰ですか?」 私は、失敗を悔やんだ。勝手にきぐるみくんと呼んでいたのがバレたら嫌われるのは当然じゃないか!よし。この場を乗り切るぞ! 「ごめんね。その、君の名前を知らなくていつもきぐるみ着てるから、きぐるみくんって勝手に呼んでたの」 「あの…えっと…僕の名前は美弥です」 「そうなんだね、えっと私の名前は桜です。これからよろしくね、美弥くん」 「はっ…はひっ」 「あれ、美弥くんさっき噛んだ?」 「噛んでません」 「そうだ、美弥くん好きな食べ物とかある?今日は、親しくなれた記念に美弥くんの好きなもの作ってパーティーしたいなって」 「桜さんが作るご飯がいいです」 それから、私たちは沢山会話をして仲良くなりました。 今では、2人でお買い物もしています。 でも、美弥くんはかわらず外出時でも、家でもきぐるみを着て生活しています。 そんな美弥くんに、いつか本当の姿を見せてくれることを願いながらもこの関係を終わらせたくないと、どこかで思う自分がいるのです。 「今日もお仕事行ってきまーす」 「気をつけなよ」 「うん、ありがとう。美弥くんも気をつけてね」 「うん。桜さん行ってらっしゃい」 「行ってきまーす」 ほんの少しだけどこんな会話をするのが、私にとってとても幸せだ。
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