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教会の外門を開けて 敷地に入る。
石畳の向こうに建つ、白い小さな教会を見ると
あー、やっと戻ってきたっていう安心感と
戦後に 一度建て直されたとはいえ
潜んでいたキリシタンたちが、ようやく堂々と
祈れるようになった場所のひとつだと思うと
ちょっと感慨深い。
明かりが消えた教会の外側を通って、裏の家の方に回る。
「あれ?」
教会と家の間の、地下室の蓋が開いていた。
中から薄く灯りが漏れている。
琉地が するりと入って行った。
「蓋してたよな?」
「でも、ここも教会だったんだ」
コンクリートの階段を降りるジェイドに続いて、
オレも降りる。
石の壁の窪みには、一つ一つに蝋燭が立てられ
小さな炎が地下室を照らす。
「本山さん」
十字架の前に、助祭の本山くんがいた。
ジェイドの声に振り向くが、頬は涙に濡れている。
「ヴィタリーニ司祭... 」
琉地が 十字架の下に前足をかける。
十字架の下の小さな窪みには、メダイが入っていた。
「教会を閉める時、落ちていたメダイに気づきました」
メダイは教会の通路、扉の前に落ちていたらしい。
本山くんは、メダイを拾うと
教会の扉の鍵を閉め、裏口から教会を出た。
「話し声が、聞こえてきて... 」
視線の端に何かが入り、そこに目を向けると
地面から 四角く光が漏れている。
近づいて蓋を開けた。
階段を降りると、光が溢れていた。
十字架の下の窪みから。
「耐え忍び、待ち望む人々の
信じる声がしたのです。祈りと共に」
洞窟教会で起こったことが、ここでも起こったようだ。
「声が遠のき、光は ゆっくりと消えました。
教会から蝋燭を持ち出し、ここに立てると
十字架の下にメダイを捧げて祈りました。
よく、待ち続けてくださいました と
彼らに伝えたかったのです」
そうか...
フランス教会のメダイは、禁教令が解かれてから日本に入ってきたものだ。
教えを護り伝えてきた人たちに、それを伝えることが出来る。
もう隠れることはない。
地上に建つ教会で祈ることが出来るのだと。
ジェイドが 本山くんの肩に手を置く。
「きっと伝わりましたよ。
毎週、ここでも共に祈りましょう。
彼らが御国に近づくことが出来るように」
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