ゴリラの章 2

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「あ、うん……ごめん」  神保は慌てて動画プレイヤーのカーソルを先頭に戻し、プレイボタンをクリックした。  車道に面した施設の出入り口。カメラは、それを斜め上から見下ろしている。  画面の奥、ガードレールの向こう。薄暗い街灯に照らされた歩道を、人影が画面右から左へ歩いてくる。  白石刑事の説明によると、彼は被害者(マルガイ)の会社員、本間英作。31歳。時間は午後9時半。  その後ろから、ひとりの人間が小走りに近づく。本間に比べても大柄。おそらく男性。琉璃の言う通り、服装その他は不鮮明で確認できない。  その男の姿勢が、かなり異様だった。  膝を曲げて腰を落とし、上体を前に倒している。ぶらんと前に垂らした両腕。首をすぼめ、肩が前に出る。  四つん這いとはいかないまでも、二足歩行のまだおぼつかない原始人――あるいはゴリラ――のような走り方だ。 「ウホ、ウホウホ、ウッホウッホ」 「こら、変な擬音入れないの」  琉璃が芳乃を叱る。  足音に気づいたのか、本間が後ろを振り返る。次の瞬間――  男は勢いをつけて、自分の身長ほどの高さにまでジャンプした。  長い滞空時間。空中で伸びきる手足。放物線の頂点あたりで、両腕を高く振り上げる。  異常な身体能力の高さ。()()()()の特徴だ。
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