ゴリラの章 2

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 飛び降りざま、振り下ろした腕を本間の顔面に叩きつける。吹っ飛ばされた本間は、仰向けで路上に倒れ込んだ。  男は前傾姿勢のまま、倒れた本間の様子を(うかが)っている。荒く息をするように、肩が上下する。たった今仕留めた獲物を睥睨(へいげい)し、愉悦に浸る肉食獣のようだ。  ふと人の気配を悟ったのか、男は走り出した。這うように画面左端へフレームアウトする。  しばらくおいて、倒れた本間の(かたわ)らへ誰かが駆け寄る。第一発見者の警備員、高野栄一。  高野の通報により、この約10分後に警察と救急が到着。しかし、本間はすでに死亡していた。頭蓋骨の後部が陥没し、頬骨、顎の骨も折れていた。 「ひと通り、定石どおりの捜査を行ってはいますがね」  白石が暗い面持ちで告げる。 「今までのところ、犯人に繋がる有力な手がかりは見つかっていません。このビデオ以外には」 「それで調査室(うち)へいらしたんですね」  加賀主任が深く頷く。調査室は()()()()にまつわる事案を専門的に扱っている。 「このゴリラ人間が、今も(ちまた)をうろついてるって事かい?」  鈴井がディスプレイを指差す。 「それはないと思います。EDDの発症、人格消失(ブラックアウト)は長くても数時間で元に戻ります」  琉璃が説明を買って出た。
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