ゴリラの章 3

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 東京西部に広がる多摩丘陵。その中でも八王子、稲城、多摩、町田の4市が接する地域は、多摩ニュータウンと呼ばれる緑豊かな計画都市である。  緑地の合間に立ち並ぶ住宅。その周囲に大型マンション、ショッピングセンター、広大な企業の倉庫、研究施設などが点在している。  事件現場はそんな丘陵地の中ほど。カーブしながら長々と続く坂の途中だ。  道路に面して、広さ一万坪ほどの製薬会社の敷地がある。  正門の脇には、警備員の詰め所が(しつら)えられていた。敷地内へ入るには、まず詰め所の小窓ごしに来意を示し、警備員から入館証を受け取る必要がある。  高野という警備員は、琉璃の提示した身分証を見ると、待ってましたとばかりに歓待した。  彼は事件の第一発見者であり、通報者でもある。当夜、高野は一人で詰め所に待機していたという。 「表のカメラに、変な男が写ってるからさ、何だろうって見てたら、人が襲われてるじゃない。大変だっていうんで、飛び出してったんだけどさ、この辺は夜は危ないんだよ街灯も少ないしさ、だからねえ私は常日頃から会社の女の子達にも言ってたんだけどさ、夜に一人歩きは危ないってね、いつも出社退社のときに声掛けてるからね、車もあんまり通らないんだよ夜はさ、こっちまで入ってくるのはうちの会社に用の有る車ぐらいだよ」  ワンセンテンスが長い。伝える情報を絞り込めずに、話しながら着地点を見失っている。それでも彼は、人と話す事が好きでしょうがないという様子で、喋り続けた。
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