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「吐け!ネタは上がってるんだ」
芳乃がテーブルを叩いて凄む。
「いや、意味判んない。ホント何なんですか?」
椅子に座らされた若い男は、相変わらず目を白黒させている。
「すみません。ごめんなさい。小葉は下がってて」
琉璃は慌ててフォローしてから、芳乃を睨みつける。
「俺ただのバイトですよ。休憩から戻ってきただけなんですけど」
壁に立て掛けられたプラカードには、〈新台入替〉の文字。琉璃と芳乃は、彼のバイト先であるパチンコ屋の控え室を借りて、話を聞いている。
「そうですよね。駅前の騒ぎの事なんか、知らないですよね」
琉璃は愛想笑いで、彼の機嫌を直そうと必死だ。
「騒ぎ?何ですかそれ?」
「しらばっくれんじゃねえ」
バイト君に掴みかかろうとする芳乃を、琉璃が羽交い絞めにする。
「さっき目撃者の撮った動画見たのよ。はっきりとは判らなかったけど、少なくともこの着ぐるみみたいな、頭でっかちじゃなかった」
琉璃が小声で説得すると、芳乃は抵抗を弱めた。
「さっきまで、どこにいたんすか」
依然としてバイト君にガンを飛ばしながら、芳乃が尋問する。
「駅近のアパートが休憩所になってるんで、そこで休んでました。同僚も一緒にいたんで、確認してもらっていいですよ」
バイト君は釈然としない顔だ。
念の為にその同僚に話を聞いて、彼の容疑は完全に晴れた。
琉璃は、芳乃の頭を押さえ付けてバイト君に詫びを言わせた。そして自分も何度も頭を下げて、その場を辞した。
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