ゴリラの章 5

4/6
205人が本棚に入れています
本棚に追加
/435ページ
「――事件の晩、何してたんすか?」  あまりにどストレートな芳乃の問いに、琉璃のうっとり気分はかき消された。 「……ちょっと小葉!」 「アリバイですよね?実は、ないんです」  狼狽する琉璃をよそに、伊野瀬はあっけらかんと言う。芳乃の眼光が鋭くなる。 「いつもその時間は帰宅して、スポーツジムに行くか、一人で近所をランニングしてるんです。たまたまその日は走ってましてね。それを証明してくれる人なんて誰もいなくて。疑われても、仕方ないです」  伊野瀬は、きまり悪そうに説明する。彼の目は、自分を睨みつける芳乃を不思議そうに見ている。  芳乃は、革のソファで偉そうにふんぞり返っている。深々と座るあまり、両足が宙に浮いてしまっている。まるで、母親の職場に無理矢理ついて来た小学生のようだ。  服装にしても、スタジャンにデニムのショートパンツ。それにごついブーツ。刑事というより、渋谷辺りをうろついている家出娘という方がしっくりくる。 「いえいえ、そういう話は以前の調べでうかがってますので、大丈夫です。すみません」  慌てて謝りながら、琉璃は芳乃の腕をつねる。「イテテテテ」と身悶える芳乃。 「今日うかがったのは、伊野瀬さんにご協力をお願いしたくて」 「協力?」
/435ページ

最初のコメントを投稿しよう!