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「――事件の晩、何してたんすか?」
あまりにどストレートな芳乃の問いに、琉璃のうっとり気分はかき消された。
「……ちょっと小葉!」
「アリバイですよね?実は、ないんです」
狼狽する琉璃をよそに、伊野瀬はあっけらかんと言う。芳乃の眼光が鋭くなる。
「いつもその時間は帰宅して、スポーツジムに行くか、一人で近所をランニングしてるんです。たまたまその日は走ってましてね。それを証明してくれる人なんて誰もいなくて。疑われても、仕方ないです」
伊野瀬は、きまり悪そうに説明する。彼の目は、自分を睨みつける芳乃を不思議そうに見ている。
芳乃は、革のソファで偉そうにふんぞり返っている。深々と座るあまり、両足が宙に浮いてしまっている。まるで、母親の職場に無理矢理ついて来た小学生のようだ。
服装にしても、スタジャンにデニムのショートパンツ。それにごついブーツ。刑事というより、渋谷辺りをうろついている家出娘という方がしっくりくる。
「いえいえ、そういう話は以前の調べでうかがってますので、大丈夫です。すみません」
慌てて謝りながら、琉璃は芳乃の腕をつねる。「イテテテテ」と身悶える芳乃。
「今日うかがったのは、伊野瀬さんにご協力をお願いしたくて」
「協力?」
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