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「はい。伊野瀬さんは、EDDってご存知ですか?」
琉璃は手短に、情動性離人障害について説明した。
「つまり、僕がその病気に罹って、本間を殺したと?」
伊野瀬の表情が強張る。
「いえ、疑いが掛かっているわけではありません。これは被害者に関係のある皆さんにお願いしてるんですが、私共の嘱託医による鑑定を受けていただきたいんです。一日の検査で、EDDの罹患は診断できます」
「それって任意ですか?」
「ええ。強制力は無いんです……」
――本当は、事件の関係者全員が検査を受けてくれれば助かる。EDD発症者があぶり出されれば、事件はすぐに解決するのだ。
だが、喜んで検査を承諾する人間は滅多にいない。自分が知らぬ間に人を殺したと宣告されて、そう易々と受け容れられるものではない。
「安心していただきたいんですが、万が一、伊野瀬さんがEDDに罹って事件を起こしたとしても、罪に問われることはありません」
伊野瀬は宙を見据えたまま、静かに琉璃の話を聞いている。
「刑法第39条に『心神喪失者の行為は、罰しない』とあります。EDDの発症中ならば、人間としての意識そのものがない訳だから、当然処罰の対象にはならないんです」
聞きながら、伊野瀬はスケジュール帳を取り出した。琉璃は続ける。
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