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その間に、車を降りた芳乃は駆け出していた。ミニスカートから伸びた脚が、ヘッドライトの中で躍る。エンジニアブーツが軽やかに路面を蹴り、弾むボールを思わせながら遠ざかる。
「警視34から本部。調査室桜井です。大田区東六郷付近で対象者が逃走中。20代男性、痩せ型、紺色のジャージ上下着用。人格消失している模様。応援要請します」
怒鳴るように無線に告げ、琉璃は車を発進させた。岸本と芳乃の姿はすでに見えない。
手首につけたインターカムのマイクで芳乃を呼び出す。
「小葉、今どこ?」
〈うーんと、わかんないっす〉
イヤホンから飛び込んでくる、息を弾ませた芳乃の声。少しハスキーで細く、少年っぽい。
「何か目印は?」
〈………〉
反応がない。激しい息づかいや、衣擦れの音だけが耳に響く。
「小葉?」
〈あっ先輩、商店街!アーケード!〉
芳乃の高揚した声が返る。これまでの彼女にないテンションだ。
「すぐ行く」
琉璃はハンドルを大きく切って狭い路地に入る。住宅密集地を横切り、目抜き通りへ出る。
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