205人が本棚に入れています
本棚に追加
タイヤの軋む鋭利な音が、寝静まった街に反響する。終電は1時間前に過ぎていた。駅周辺には、ときおりすれ違うタクシー以外に人の気配もない。やがて、深夜でも煌々と照る商店街の灯りが見えてくる。
――どんだけ足速いのよ
二人を見失って3分も経たないというのに、車でも容易に追いつけない。岸本はともかく、芳乃の華奢な身体のどこにそんなパワーが潜んでいたのだろう。
〈先輩、着いた?〉
「もうすぐ。商店街のどこ?」
〈クリーニング屋があるから、そこで車止めて〉
芳乃の声に混じり、バンバンと何かを叩くようなノイズが聞こえる。
通りの右側にアーケードの入り口が現れた。50メートルほど続く、アーチ状の屋根。芳乃たちの姿は見えない。琉璃はスピードを緩めて進入する。
建物の中にでも逃げ込まれたのだろうか。辺りを警戒しつつ車を走らせる。タイヤが舗道と擦れ、キュルキュルと鳴く。
出口の近く、芳乃の指定したと思しきクリーニング店の前で停車する。琉璃がインカムで芳乃を呼び出そうとしたそのとき――
車のボンネットに人間が降ってきた。
強い衝撃と共にフロントガラスが粉々に砕け、琉璃は思わず短い悲鳴を上げた。数秒、意識が白く飛ぶ。
最初のコメントを投稿しよう!