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「小葉!」
我に返った琉璃は、車から転げ降りた。
ボンネットには、仰向けにぐったりと横たわる岸本の姿があった。投げ出された手足が時折ひくひくと痙攣し、胸郭がゆっくりと上下している。息はあるようだ。
「せんぱーい」
頭上から芳乃の声が聞こえる。
見上げると、芳乃がアーケードの支柱につかまっていた。取り付けられた梯子を、するすると降りてくる。右手に拳銃を握っていた。
「小葉!まさか発砲したの?」
梯子の中ほどで立ち止まった芳乃は、こくりと頷いた。拳銃を持つ手を高くかざす。琉璃は彼女の指すアーケードの屋根を仰ぎ見た。
ポリカーボネート製の天板に、直径1メートルほどの穴が開いていた。ぎざぎざの裂け目から闇夜が透けている。
「落とし穴……?」
琉璃は理解した。インカムから聞こえていたのは、芳乃が天板の上を走る音だったのだ。アーケードの屋根を伝って逃げる岸本を追い、足元を撃ってその穴から転落させたのだろう。
――あまりにも無謀だ。
「何やってくれてんのよ……」
安堵と落胆が入り混じり、緊張の糸が切れる。琉璃はその場にしゃがみ込み、両腕で頭を抱えた。
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