ゴリラの章 2

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「まるでゴリラね」 「ゴリラっすね」 「そうね、ゴリラだわ」 「確かにゴリラですね」  パソコンのディスプレイを囲んで、4人は異口同音に感想をもらした。  警視庁刑事部要件不適合事案調査室。  けいしちょうけいじぶようけんふてきごうじあんちょうさしつ――この部署の正式名を、舌を噛まずに淀みなく言える者は少ない。詰め込みすぎた名前のせいで、逆に調()()()という曖昧な呼び方が定着してしまった。  調査室に所属する捜査員は4人。そのほかに、今日は部外から二人の刑事が部屋を訪れている。 「俺も長年やってるが、こんな事件(やま)は初めてだよ」  八王子西署の鈴井という、年かさの刑事が頭を掻きながらこぼす。 「これが例の、()()()()ってヤツですか」  もう一人の少し若い方は、本庁捜査一課の白石刑事だ。  彼の質問に、調査室の加賀(かが)主任がおだやかな笑顔で答える。 「はい。この映像を見る限りそのようですね。正確に言うと、()()()の発症者です」 「EDD?」 「情動性離人障害。顕在意識が途切れて、論理的な思考ができなくなる病態です」  落ち着きのあるしっとりとした声。彼女はストラップ付きの眼鏡を外しながら続ける。
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