春利にしかできない先生へのお礼

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「おいおい、大ニュースだぜ!」 入り口にぶつかるようにして教室に駆け込んだ野口が叫んだ。 「ちょっと危ない、野口くん。この間もそうやって窓ガラス割ったでしょ」 女子クラス委員の園崎が即座に注意する。しかし野口は彼女の声には反応せず、教壇をバンと叩くと更に大きな声で告げた。 「音楽の朋子先生、4月から産休に入るんだってよ!」 エエーっと悲鳴が上がった。続いてザワザワとクラスメイトたちが興奮気味に話し出す。そんな中、春利だけはその場に固まって動けないでいた。  音楽の朋子先生、4月から産休に入るんだってよ……。 野口の声だけが何度も何度も頭のなかを駆け回る。意味が分からない。分かりたくない。だって、だってそれは、もうすぐ朋子先生がこの学校からいなくなるということじゃないか? しかも、産休ということは、朋子先生は結婚しているということ? 誰か愛する人といっしょに幸せだということ? 春利の周りだけ真冬の外気が染み込んできたようだった。冷たい冬の池に突き落とされたかのように体が芯まで冷え、重たく沈んでいく。耳の中に水が入ったかのように、周りの音が随分遠くに感じた。かすかにクラス委員の園崎が「みんなで朋子先生にお祝いの品をプレゼントしようよ」と言ったのが聞こえた。それを皮切りに女子たちの甲高い声が一層大きくなったようだった。
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