春利にしかできない先生へのお礼

4/17
前へ
/17ページ
次へ
春利が再びピアノに触れるようになったのは、半年の冷却期間をおいて、ピアノが恋しくなったから、というわけではない。相変わらずピアノのことはどうでもよかった。ただ他人からピアノを弾くように求められたのだった。 「伴奏は小林くんがいいと思います」 急に名前を呼ばれ、ぼんやりしていた春利は突然叩き起こされた。気がつけば周囲のクラスメイトが自分を振り返って見ている。正面の教壇にはクラス委員の園崎と梅田。黒板には  合唱コンクール   合唱曲 ○○○○○○○   指 揮 園崎   伴 奏 と書かれている。春利の頭がノロノロと状況に追いついてきた。そうだった、今はホームルームの時間で、2ヶ月後の11月に行われる合唱コンクールに向けた話し合いをしていたのだった。 「小林くん、いいですか?」 有無を言わせない強い口調で園崎が尋ねる。依頼というより確認のようなその言葉に、春利は考える余裕もなく頷いていた。園崎が黒板に向かって   伴 奏 小林 とかきつけた。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加