第一章

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そんな話があってからの就職活動はなぜか上手くいかない。書類審査、筆記試験、面接と第1次審査から第3次審査のまでは行くのだが、なぜか内定が取れない。エントリーした一流企業すべてがこの調子で内定がもらえなかった。これはもはや何かの力が働いているのではないかと考えるようになるのは当然のことではないか。 仮にも一流大学の経済学部に在学をしていて、これだけの企業から内定をもらえないとなると、さかのぼることあの記憶。 ヤクザがアパートで言った「私どもの企業に就職して頂きたい」がどうも引っかかる。 まさか、そんな事ができる訳がないだろと思いたいが、これだけ内定がもらえないとなるとおかしい。 もう関わりたくはなかったが、意を決してあの若頭補佐の杉田さんに電話して聞いてみることにした。 「お久しぶりです。女鹿沢です。」 「ああ、お久しぶりです。おげんきですか?」 相変わらず、丁寧な話し口調で、ヤクザとは思えないほど物腰が柔らかい話し方をする。 「あの、お聞きしたいことがあります。単刀直入に聞きます。就職活動が上手くいかないんですが、杉田さん何かご存じありませんか?」 「おや、それはどういう意味ですか?」 「知らないなら、それでいいです」 「就職活動が上手くいかないときは、私どもの会社がありますので、是非よろしくお願いします」 絶対何か知っている。知っているのにとぼけやがってと俺は思ったが、何が何でも、仮に一流企業でなくても内定をもらってやろうと思った。 ところが、どういうわけか大企業どころか中小企業の内定も取れない。 ああ恐ろしい。日本最大のヤクザはこんな所まで手を回してくるのだと思い知らされた。同級生が次々と内定をもらっている中、一人どこの内定ももらえないまま4年生も後期になろうとしていた。
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