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 一週間ぶりの学校は授業の前に短い全校集会があったこと以外はまるで何事もなかったかのようで、私たちはいつもと変わらない日常を生きていた。学校の周りにはたくさんのマスコミの人たちがいたけれど、みんなインタビューも答えずに無視していた。  今は数学の授業中で、これが終われば昼休みになるからきっとみんな早く終わらないかなって思っている。いや、たぶんそれはどの授業でも思っていることだ。  私が座っている席は窓際の一番後ろの所で、普通なら最高のポジショニングなんだけど、今となってはあんまり嬉しくない。目の前の席には小瓶に花が入れられて置かれている。一週間前までこの席は田中くんの場所だった。今だって机と椅子は置かれているのだし、椅子の後ろには田中と書かれているシールだって貼られているのだから、まだ田中くんの場所なのかもしれない。だけど田中くんはもういない。田中くんは一週間前にこの学校で誰かに殺された。  黒板を見るたびに前の席にある花が目に入って仕方ない。最初は田中くんのことを思い出して悲しくなったり、怖くなったりしたけど、何回も見るとただうっとうしいだけだ。私は薄情なのかもしれない。でもみんなだって平然と授業を受けているし、先生だってそうだ。  ていうか、やっぱり今の状況はおかしすぎる。田中くんが学校で殺されてから一週間しか経っていないのに、それに犯人も分かってないのに、当たり前のように学校を再開するなんてどうかしている。でも、あんなに仲良さそうにしていた男子たちも熱心にノートをとっていて、もう私は何が正しいのか分からなくなっていた。  確かに私たちは三ヶ月後に大切な高校受験を控えているし、それは今の私が思っているより今後の人生を左右するのかもしれないけれど、だけど人が殺されたんだ。それも赤の他人ならともかく、私たちのクラスで一番の人気者だった田中くんが殺されたんだ。
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