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 猫は既に弱っていたのか、五メートルくらい飛んでいってそのまま公園内にあるトイレの前で動かなくなった。遠くから見ているとまったく動いていないから、死んじゃったのかと思ったけれど、助けを求めるように小さな声で鳴いているのが聞こえた。  私は唖然としてしまって、その場から動けずに、声も出すことができなかった。理子はその猫に近づいていって、さらに頭の方を思いっきり踏んづけた。私は思わず目を背けてしまう。理子は猫の首を片手で掴んで、女子トイレの方に猫を連れて入って行った。  私はしばらく思考停止して、それから辺りを見回した。私以外には誰もいなかったようだ。誰かに見て欲しかったような、誰もいなくて安心したような、とにかく何がなんだか分からない。理子はトイレで猫に何をしているのだろうか。たまに動物を虐待して逮捕される人をニュースで見るけれど、理子もそんな変態的な趣向を持った人だったのだろうか。だとしたら猫はトイレで殺されている最中なのだろうか。そんなことを考えているとトイレの中からドサッと大きな音がして、私は怖くなって思わず理子に見つからないようにトイレの後ろに隠れた。  その後も中から鈍い音が何回かした。もう猫の鳴き声は聞こえなかった。それが何を意味しているのか私も分かったが、分かりたくなかった。そして何も聞こえなくなって、しばらくしてシャッター音が聞こえる。そういえば理子は猫に暴行する前も写真を撮っていた。今度は死体を撮っているのだろうか。どうして理子はこんなことをしているのだろう。
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