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 ふと、そもそもあれは本当に理子だったのだろうかという疑問が浮かぶ。私の見間違いの可能性もあるじゃないか。たしかに、制服は私と同じ学校だったけれど、私から見えたのはせいぜい横顔で、ちゃんと正面から見ていない。  トイレから出てくるところを見なくてはならない。私は義務のようにそう思った。トイレから鳴っていたシャッター音はもうしなくなった。それから水で流す音が聞こえた。私は中にいる少女がトイレから出る気だと思い、相手からはできるだけ見えないように、壁から少しだけ身を乗り出して、トイレの右側にあるベンチの方を向いた。  ベンチの上には私の学校の鞄とエナメルバックが置いてあった。周りに人はいないし、中にいる少女の物に違いないと思った。足音が聞こえてくる。私は心臓がドキドキしていることに気が付く。恐怖に負けないように私はベンチの方をじっと見続ける。  そして私がエナメルバックに付いているとても見覚えのある可愛い猫のキーホルダーの存在に気が付いたと同時に、少女がハンカチで手を拭きながらベンチにやってきた。少女はエナメルバックを肩にかけてバックを持ち、足早に公園から出て行った。少女は間違いなく理子であった。それにエナメルバックに付いているキーホルダーは、私が理子の誕生日にプレゼントしたものに違いなかった。
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