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 理子がいなくなって数分経ってからようやく、私は落ち着きを取り戻しつつあった。とにかくこの場からできるだけ早く離れたいと強く思った。あいかわらず人は誰もいなくて、公園はとても静かだった。歩き出して足が震えていることにはじめて気が付く。もう冬になるというのに私は多量の汗をかいてしまっていて、それが下着に染みて気持ちが悪かった。  なんとか公園から出て、そして早歩きだったら五分もあれば着く家に帰ろうとした。しかし、どうしても猫の事が気になってトイレの方を振り返ってしまう。私はあの猫がどうなったのかをちゃんと見なければいけない気がした。  もう一度、トイレの近くに行く。昔からある、古びていて汚くて臭いもひどいものだから使う人はほとんどいないはずだ。私はどこかで猫がまだ生きていることを期待していた。やっぱり理子が猫を虐待するわけがないし、きっとすべてが見間違いだって信じていた。  だけど、女子トイレに入って、その一番奥にある個室で私が見たのは、血によって真っ赤に染まって内臓がむきだしになっていて、首が完全にとれてしまった無惨な猫の姿だった。  その日は塾がある日だったけれど、私は家に帰ってから夕飯も食べずに部屋に閉じこもった。明日、学校に行って理子とどんな顔をして会えばいいのか分からない。そもそも理子は学校に来るのだろうか。あんなことをして平然と来るのだろうか。それとも、理子にとっては猫を殺すことなんて日常的な行為で、何とも思っていないのだろうか。  でも、このまま逃げてはいけないと思って、私は次の日の朝、いつもより早く学校に行った。理子がいつも朝早く学校に行って、自習していることを知っていた。私はすぐにでも理子に会いたかった。会って何を話せばいいのか分からなかったが、もちろん私にはいきなり猫のことを理子に聴く勇気なんてなかったし、まして他の子には絶対言ってはならなかったから、でも、とにかく理子に会いたかった。
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