14

2/20
1273人が本棚に入れています
本棚に追加
/233ページ
 その日、朔と涼真は東京にいた。  目的地はひとつ。朔の実家だ。  黒崎から返された母からの手紙。その内容を、朔は涼真と共に確認した。手が震えるほど緊張して読んだ手紙の内容は、驚くほど簡潔だった。  ーー20XX年8月16日。お父さんの還暦祝をするので、帰ってきてください。  心配しているだとか帰ってこいだとか、そんな言葉が書き連ねてあるものだと思っていた。家出の事も責めているだろうと。だから、震える手で手紙を開いてこの文章を読んで理解した時、驚くよりも先にストンと胸に落ちた。  父はもう、60歳なのだと。  偶然なのか巡り合わせなのか、手紙に記された日付は来週の事だった。手紙を見つめたまま呆然としている朔に、涼真が声をかけてくれた。  ーー行くか?  その言葉に、朔は間を置くことなく頷いた。  不思議だった。あれほど、二度と帰ることは無いと思っていたはずなのに、ただ単純に「行こう」と素直に思えた。それは、すぐ側に涼真が居てくれたからかもしれない。 (でもまさか、涼も一緒に来てくれるなんて……)     
/233ページ

最初のコメントを投稿しよう!