1273人が本棚に入れています
本棚に追加
/233ページ
その日、朔と涼真は東京にいた。
目的地はひとつ。朔の実家だ。
黒崎から返された母からの手紙。その内容を、朔は涼真と共に確認した。手が震えるほど緊張して読んだ手紙の内容は、驚くほど簡潔だった。
ーー20XX年8月16日。お父さんの還暦祝をするので、帰ってきてください。
心配しているだとか帰ってこいだとか、そんな言葉が書き連ねてあるものだと思っていた。家出の事も責めているだろうと。だから、震える手で手紙を開いてこの文章を読んで理解した時、驚くよりも先にストンと胸に落ちた。
父はもう、60歳なのだと。
偶然なのか巡り合わせなのか、手紙に記された日付は来週の事だった。手紙を見つめたまま呆然としている朔に、涼真が声をかけてくれた。
ーー行くか?
その言葉に、朔は間を置くことなく頷いた。
不思議だった。あれほど、二度と帰ることは無いと思っていたはずなのに、ただ単純に「行こう」と素直に思えた。それは、すぐ側に涼真が居てくれたからかもしれない。
(でもまさか、涼も一緒に来てくれるなんて……)
最初のコメントを投稿しよう!