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さすがに予算オーバーなのか、客は慌てて壁際に後ずさりしている。ルナは熱い身体を自分で抱きしめながら黒崎に目を向けると、彼は苛立ったように舌打ちをして客の前に立った。
「多いんですよね。発情プレイのオプションに夢中になって、正気を失うお客様。谷崎様のように言い訳をされて困るので、プレイ中の内線での会話は全て録音しております。お聞きになりますか?」
「それ、は……」
「申し上げたはずですよ。ルールを守って、お楽しみ下さいと」
無表情で近づく黒崎に客は完全に恐怖を感じている。
強い、雄。
そう思ったら、ルナは無意識に黒崎の方へ近づいていた。黒崎の長い脚に手を伸ばした時、黒崎の鋭い目に睨まれる。
「ルナ、ステイ」
ビクリと身体を震わせ、ルナは動きを止めた。
犬に言うようなコマンドでの命令は屈辱的なはずなのに、黒崎には逆らえない。
ベッドの隅で身体を丸め大人しくしていると、黒崎は靴を履いたままベッドに上った。
怯える客の真横の壁を、黒崎の長い脚が激しい音を立てて蹴りあげる。
「ひっ!!」
「延長料、64000円。払ってさっさと帰れ」
怒鳴るわけでもなく、静かな、それでいて逆らうことを許さない低い声。
真っ黒な髪とスーツ姿。シンプルなのに恐ろしく整った顔立ちの黒崎が着れば、それだけで迫力がある。そんな彼に本気で睨まれれば、どんな客でも怯み、逆らえない。
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