11/19
前へ
/233ページ
次へ
 容姿も体格も、客と比べたら黒崎の方が圧倒的に強者だ。  怯えた客は転がるように自分の荷物を取り、財布から万札数枚を投げた。そのまま服を掴み、ドアへと走る。 「谷崎様!」  黒崎の声にドア前で客は飛び上がった。 「シャワーはよろしいのでしょうか?」  先程よりは僅かに和らいだ声音だが、客は肩を震わせ黒崎を睨んだ。 「冗談じゃねーよ!」  そう吐き捨てて客は部屋を飛び出していった。 「去り際だけ強気に出られてもね」  黒崎は客が捨てていった万札を拾い上げ、舌打ちをする。 「足りねえな。逃がすんじゃなかった」  万札を折りたたみポケットに入れ、黒崎はようやくルナを振り返った。 「よく我慢できたな。来い」  その言葉でルナはようやく動き出し、黒崎の脚に縋り付いた。 「くろ、さきさん……黒崎さん」  身体の疼きは限界だった。  黒崎のスーツのボトムに手をかけ、熱い雄を求めて触れようとすると、その手を掴まれる。 「ここでは抱かねえよ。家まで待て」 「いや……、やだ……いま抱いて、犯して」 「だめだ。すごい匂いだな……。やはり、βじゃ役不足か」  部屋にはルナのフェロモンの甘い香りが充満している。散々抱かれた後なのに、香りは少しも薄まっていない。     
/233ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1299人が本棚に入れています
本棚に追加