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記憶の中の母は、いつも泣いていた。
「ルナ。今日の予約リストだ」
誰もいない控え室のソファに寝転んでいると、顔の上に一枚の紙を乗せられた。
「邪魔。今いい所なんですけど」
読書中の視界を遮られたことに不満を漏らすと、この店のオーナーである黒崎慎は仕事が先だと本を取り上げる。
ルナを見下ろす黒崎の目つきは鋭い。
良く言えば硬派、悪く言えば冷たい。黒崎はそんな男だ。元々口数が少ない上に口調も鋭いので、店のスタッフが愛想が無い、怖いと言っているのを頻繁に耳にする。
(あーあ。笑えばもっといい男なのに)
仕事中は常にスーツ。180を超える長身で愛想なし。威圧感の塊のような男だが、顔はハッキリ言って美形。モデルだと言われても納得のスタイルと顔立ちだ。
「ぼーっとするな。予約リストを確認しろ」
「言われなくても、予約なら出勤した時に確認してますよ」
何年この仕事をしていると思っているのか。
いいから本を返せと手を伸ばすと、黒崎がいつもより小さな声で言う。
「……オプション希望の連絡が入った」
その一言でルナはがばりと跳ね起きた。
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