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空港から家の最寄り駅まで向かう電車の中で、朔はそっと涼真の顔を見た。今日まで深夜まで残業を続けて仕事を終わらせたという彼は、飛行機内でもこの電車内でも朔にもたれかかってずっと寝ている。彼の目の下にはハッキリとクマができていた。
朔が行くと決めると、涼真は当然のように仕事の休みを取った。驚く朔に対して、涼真は「当然だ」と言った。初めから1人で行かせる気などなかったらしい。彼曰く
ーーまたなにかあって、俺の前から居なくなったら困る
という事らしい。信用ないな、と笑うと自業自得だと返された。
そんな軽いやりとりができることが朔にとってどれだけ幸せな事か、きっと彼は分かっていない。こんな居心地のよさを思い出してしまったら、もう二度と彼から離れることなんか出来ないと自覚していることは、黙っておくことにした。
黒崎の家を出てから、朔はとりあえずビジネスホテルで生活している。涼真の家に来いと誘われたのに断ったのは、この手紙の件があったからだ。
両親とちゃんと話をしてから、涼真との付き合い方を考えたい。そう思った。そんな朔の考えを察したのかは分からないが、家の件は今のところ保留となっているままで、涼真も何も言わないでいてくれている。
(会って……、どうなるんだろう……)
責められるだろうか、連れ戻されるだろうか、泣かれるだろうか。
(泣かれるぐらいなら、責められる方がマシだな……)
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