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夢を見ることなんて滅多にないのに、どうしてよりによって彼の姿を見てしまったのか。
「もう、五年、か……」
「どうした?」
「別に。俺が黒崎さんに拾ってもらってから、もう五年も経つんだなって思っただけ。ほんと、ここに置いてくれてありがとうございます。あ、金はちゃんと払いますから」
ーー1000万札稼げ。それで仕事と家を与えてやる
出会ったあの日。黒崎は朔にそう言った。
その金額を聞けば非常識だと思うだろうが、朔は嬉しかった。ただで置いてもらうより、対価を求められた方がずっと安心できたし、なにより対価を払いさえすれば、居場所がある。それが、絶望に沈んでいた朔にとっては救いだった。なにより、セックスに溺れている間は辛いことを忘れていられる。
(もう、思い出したくもないのに……)
17歳で家を飛び出し、偶然出会った黒崎に助けられてから五年。朔は22歳になった。
この五年間、家族はもちろん友人達とも一切連絡を取っていない。
それなのに、夢で見た彼の姿が頭から離れず目頭が熱くなる。
「……余計なこと考えるな。寝ろ」
「うん」
黒崎は何も聞かない。だから、朔も何も聞かない。
αでありながらなぜ風俗店のオーナーなんて仕事をしているのか。疑問に思っても、聞いたことは1度もない。
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