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人類が足を踏み入れる事が出来た最下層の地下は、3.9Km。
掘削穴だけなら約12.3km。
しかしその更に下、約30kmの地下深くに生物園と呼ばれる施設がある。
植物園、昆虫園、動物園、水族館、それらを全て統合した施設と言えば分かりやすいだろうか。
施設自体も半径20kmと広く、その中には数多くの絶滅危惧種が展示されていた。
自然に近い形で、生物達にストレスが掛からない様に、最新の注意が払われている。
地下と言っても中は暖かく、ペリドットに覆われたそこは、薄緑色に輝き、漆黒の暗闇という訳でもない。
「この虫はなんていうの?」
身長150cm程の少年が、花の蜜を吸っている小さな虫を指差す。
「これは・・・・・・蚊だな」
共にここを見学に訪れている青年が答えた。
「こいつらは普段、この針のような口で蜜や果汁を吸っているんだけど、産卵時にメスが血を吸うんだよ」
青年は、しゃがみ込んで、その虫に顔を近付けた。
「刺されるとかゆみや、中にはウィルスを媒介するものもいて、それで人類が退治しようと開発したある機械によって、地上に居られなくなって」
少年は目を輝かせて、その青年の説明を聞いている。
「海へと逃げた末、そこで力尽きてしまったんだ」
「お、おい、走るなよ」
話の途中で、違う虫に興味をそそられた少年は、そこへと駆けて行った。
「ねえ、これは・・・・・・知ってる!蛍って言うんだよね」
光り輝くその虫に、少年は見惚れてしまった。
聞いているかどうか分からないなと思いながら、青年は説明を始めた。
「こいつらは本来清水で生息していたんだけど、人類が汚染した水、害虫退治用に撒かれた農薬によって絶滅したんだ」
頬を赤らめ、じっと蛍を見ている少年の手を引っ張って、青年は歩を進めた。
「あーん、もうちょっと見たいよー」
そう言って踏ん張る少年も、青年の力には抗えなかった。
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