春待ちの木々

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 ロッカールームで深雪と一緒になった。 「おはよ、早智恵」 「おはよう」  深雪は口紅を片手に「良かったじゃん」と言った。私は良かったの意味が分からず、ロッカーの扉を開けながら首を傾げる。 「良かったって? 日曜のこと?」 「そう。森田に誘われたんでしょ?」  上下の唇を合わせ、鏡に向かって目を開く深雪に、「まあね」と返事をした。 (誘われたって言えば誘われたけど) 「木下なら暇だろうって思われたのよ、きっと」  コートを脱いで身支度を整えながら口角を下げる。深雪は私の隣まで近付いてきて肩に手を乗せた。 「そうかもしれないけど。遊んでるって思われるより良くない?」 「んー、そうだけど。……それよりも深雪こそ何よ、あのライン」  くるりと顔を向け眉毛を吊り上げると、深雪は唇に人差し指を当ててニヤリと微笑んだ。
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