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「だから出てこいよ」
森田君の口調が変わる。害虫認定した私にはネコを被る必要もなくなったという訳か。
「森田っ! 手前ぇ!」
林田が運転席から飛び出した。バシャバシャと足音を立てぐるりとフロントを回ると、森田君の肩を掴み、私から乱暴に引き剥がす。
「林田……」
どこか恍惚とした声を上げた彼は、額に張り付いた前髪を片手で掻き上げた。眼鏡の奥の瞳がギラリと光っている。
「お前騙されてんだよ」
「騙されてる?」
林田は肩を怒らせたまま、森田君に向き合った。車内に霧状の雨が吹き込んでくる。私はドアを閉めることも外に出ることも出来ずに、二人の声を雨音と共に聞いていた。
「そうだよ、林田」
森田君は腰に手を当てて顎を持ち上げる。そしていつもの自信溢れる表情を見せた。
「だって木下は俺のことが好きなんだぜ」
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