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「待てよ、林田! 俺は、俺だって!!」
森田君が林田の肩を掴んで叫ぶ。林田は冷めた瞳で森田君を見下ろした。二人の身長は同じくらいのはずなのに、森田君が小さく見える。
「俺だって何だっつーんだよ。木下を想う気持ちなら……」
「違う! 俺が好きなのはお前だ!!!」
被せるように発せられた叫び声は、鋭い刃となって真っ暗な空間を切り裂いた。
(言った……)
「俺が好きなのは…………お前なんだよ…………」
がっくりとくずおれた彼の声は雨音に飲み込まれる。コートの裾が水たまりに落ち、映り込んでいた自販機の光が霧散した。
「あ? えーと……」
林田はぽかんと口を開け、自分の顔を指差す。
「俺?」
森田君の首が僅かに動き、間の抜けた質問を肯定した。
「そか……そうか……俺なのか……」
座り込む森田君、立ち尽くす林田、そして車の中の私。微妙すぎる空気感。
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