春待ちの木々

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『今日の東京は雨です。みんなのところはどう? 雨? それとも晴れだった? サッチは寒くってブルブルです。この間のお休みに春物を出したんだけど、まだ早かったかなぁと……』  カク、カクと一定のリズムを刻むワイパーの音をバックに、ラジオから若い声がする。(くだん)のサッチがパーソナリティの番組だ。 「ごめん」  運転席から林田が謝ってきた。 「なんだか変な空気になっちまって」  私は隣の横顔を見る。大雑把に拭いた髪が、所どころ束になって跳ねていた。 「林田の所為じゃないよ」  あの告白の後、流石に風邪を引くからと森田君をフェラーリに押し込んで、私たちも帰ることにした。バックミラーに彼の車は映っていない。ちゃんと帰ってくれれば良いけれど。 「いやぁ、モテる男はつらいなぁ。ハハハ」  いつもの軽口も心なしかパワーがない。私は「そうね」と一言呟いて正面に向き直った。フロントガラスの先には暗い一本道が続いている。目立った建物もない所為か交通量も少なかった。
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