春待ちの木々

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「俺ら二人とも営業だから。口が商売道具だからね」  田所さんが口の前でパクパクと手を開いたり閉じたりした。調子の良い会話は営業だからってだけとは思えない。やっぱり合コン慣れしているんじゃないだろうか。 「じゃあお二人の言葉は営業トーク半分、と」 「ああ、違うって。こうやって話してるとむしろ深雪ちゃんの方が営業っぽいな」  田所さんはそう言って笑った。浅黒い肌に白い歯が光る。 「さ、何呑む? 選んで、選んで」 「ありがとうございます」 (んー。盛り上げようとしてくれるのは分かるけど、軽いなぁ。そもそも営業なのに金髪(あのなり)っていうのがね)  大学時代の合コンもこんなノリだったよなと思い出しつつ、差し出されたメニューに視線を落とした。
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