春待ちの木々

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 私はその顔に向かって言う。 「眼鏡なところ」 「はぁ!?」 「冗談よ」  林田は眉毛を吊り上げ「さらっと怖いこと言うなよ」と不平を漏らした。 「俺は視力が良いのが取り柄なんだから」 「へぇ」 「両目とも一.五。調子が良いときは二.〇を叩き出すぜ」  人差し指で鼻の下を擦りながら顎を持ち上げる。 「何威張ってんのよ。私だって一.五」 「あれ? そうなの?」  拍子抜けした声を上げる林田を無視して、正面に視線を戻した。私は消えたディスプレイを確認し、引き出しからポーチを取り出す。林田なんて相手にしてないで、さっさと帰ろう。 「じゃあね。お疲れ様」 「おう、お疲れ」  立ち上がってロッカールームへ向かう。ラインには深雪の返信が入っていた。 『楽しみ! 格好良い人連れてきてよね!』 (期待してないくせによく言うわ)  苦笑しつつスマホのカバーを閉じた。
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