春待ちの木々

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 今日は最低気温が氷点下の予報だった。雪こそ降らないものの、空気は刺すように冷たい。スーツの上に厚手のコートを着て、ぐるぐるとマフラーを巻き会社に向かう。髪は下ろしてきたが寒さで耳が千切れそうだ。  事務所の入り口で駐車場からやって来た林田と一緒になった。 「おっす。寒いなぁ」 「おはよ。あんたは良いじゃない。車なんだから」 「車だろうと寒いもんは寒い」  林田のグレーのコート姿はバス通勤の私と違って軽装に見えた。私はこの寒い中、しもやけになりそうな足をもじもじと擦り合わせながらバス停で立ちっぱなしだったのだ。両手を擦るようにして肩を竦める林田に「贅沢よ」と返す。 「車だって言うほど楽じゃないんだぜ。確かにバス通が大変なのは分かるけどさ」 「分かる訳ないわ。バス通と車通勤の間には相容れない深い溝があるのよ」  当たり前だけど夏は暑いし、冬は寒い。外気と車内の温度差もある。電車よりも時間が当てにならないし、自分の好きな時間に好きな室温で乗れる自動車(マイカー)通勤と一緒にされちゃ困るのだ。まあ、渋滞とかはあるだろうけど、それはバスだって同じだし。
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