春待ちの木々

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「おっす」 「おはよう、森田くん。もう出るの?」  森田くんはこくりと頷く。手には黒い鞄と社名の入った手提げの紙袋を持っていた。 「ああ。K社へ行ってくる。合コンの件も話してこないと」  そう言ってパチリとウインクを寄越した。林田が腰に手を当てて森田くんに向き直る。 「お前、ちゃんと営業してんのかよ? 女子にばっかり営業かけてるんじゃねぇぞ」 「うるさいな。向こうから声掛けてくるんだから仕様がないだろ」  森田くんはにやりと口角を持ち上げた。時折見せる強気の表情。 (ああ。森田くんのこの顔。好きだなぁ)  林田はちっと舌打ちをして、森田くんの首に腕を巻き付けた。 「その余裕、ムカツク」 「ははは。林田も頑張れ」 「頑張れじゃねぇよ」
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