春待ちの木々

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 私たちが騒いでいる横を、出勤してきた他の社員たちが通り抜けていく。いつまでもここで油を売ってる訳にはいかない。私は林田の腕をつついた。 「私たちも行くよ。森田くん気をつけてね」 「大丈夫。俺、()はいっぱい持ってるから……ってててて」  力の入った手に森田くんは眼鏡の奥の顔を歪める。 「お前の木を刈ってやる。うらうら。林田になってしまえ」 「やめろって。あははは」  二人は楽しそうにじゃれ合っていた。 (男子っていくつになっても子供。ちょっと羨ましいけど)  私は騒ぐ二人を置いて社内に入った。暖房の無い廊下はまだ外の延長といった感じで空気がひんやりとしている。 「寒……」 『雪道には危険がいっぱい』と大きな雪だるまが交通安全を啓蒙するポスターの横を足早に通り過ぎる。早く春にならないかな。
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