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いちいち「彼氏の迎え?」とかそんな質問を受けるのが面倒臭いから、トイレに行って少し時間を潰した。気合いが入っているみたいで少し嫌だけれど、もう一度口紅を塗り直す。そしてきっかり五分後廊下に戻り、スマホを弄りながら林田を待った。
「悪りぃ、五分過ぎたか」
「大丈……!」
林田の声に顔を上げると何故か……
「お疲れ様、木下さん」
森田君が一緒だった。
「…………お疲れ様」
眼鏡の奥の瞳が細められている。
「丁度一緒になってさ。駐車場まで一緒に行こうって」
林田は「な?」と隣に並ぶ森田君に同意を求めた。森田君は「ああ」と小さく返事をした後、私をじろりと睨め付ける。
「なんで木下さんが居るの?」
「…………」
――害虫はさっさと駆除しないとな。
あのときと同じ冷たい空気が流れていた。刺すような視線、心臓を握り潰されるような圧迫感。
「俺が送るっつったんだよ。ほら、結構雨も降ってるし」
林田がへらりと笑いながら森田君の肩を叩く。森田君はニヤと口端を持ち上げた。
「だったら俺が送るよ。林田の車よりスピードも出るし」
「お前のツーシーターは速いばっかりで、乗り心地最悪じゃねぇか」
「女子には見た目の方が大事なの」
「くっそ。言うなぁ」
林田は舌打ちをしながら後頭部を掻く。
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