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(これも森田君の言うステータスっていう奴なの?)
確かに背の低いスポーツカーから降りてくるスマートな森田君に憧れていた。シルバーフレームの眼鏡、冷たい印象の瞳、サラサラな黒髪。外見だけじゃなく仕事だって出来る。その助手席に私が座っていたらなんて何度夢見たことか。
「じゃあ……」
そう言って森田君の手が私に向かって伸ばされた瞬間……
「ごめん。私は中身が大事なんだ」
森田君の手を避けるように半身をずらして、林田のジャケットを掴んだ。二つ並ぶ顔が驚いた表情で私を見る。
「…………だってさ。俺のアクセラの勝ち」
林田は私の方に一歩踏み出して森田君に顔を向けた。森田君は眉間にシワを寄せ、頬を歪める。
「そうだ。木下さんも気が足りない人だったね」
低い声が寒い廊下に落とされた。一瞬にして険悪な雰囲気が三人を包み込む。私は光る眼鏡を黙って見返した。
「まあまあ、森田。何、冗談に本気になってんだよ」
林田が森田君の肩をぽんぽんと叩きながら、いつも以上に大きな声を出す。林田はどんなときでもムードメーカーだ。
「冗談じゃないんだけど」
ぼそりと返された嫌味はちゃんと聞こえている。格好良い見た目と違って腹の中は本当に真っ黒だ。
(知れば知るほどがっかり)
私はジャケットを掴む腕をそのまま林田の腕に絡めた。
「行こ、林田。森田君、お疲れ様」
絡めた腕を引っ張って森田君に背を向ける。
「お、おい。……じゃあな、森田」
「…………」
片手を上げて挨拶する林田を引き摺るようにして入り口ドアに向かった。フェラーリよりもアクセラよ。
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