153人が本棚に入れています
本棚に追加
外は林田の言うように結構な雨だった。これは買い物に行かなくて良かったかもしれない。私たちは並んで傘を差し、駐車場に向かった。
「傘邪魔だろ。後ろに置いとけよ」
「ありがと」
後部座席の足下に傘を置き、黒いアクセラの助手席に収まった。車内はひんやりとしていて思わず肩を竦める。ブルルンと掛けられたエンジンに、ミラーにぶら下がったお守りが揺れた。
「お前、また森田と何かあったのか?」
運転席から呆れたような声が上がる。
「またじゃない。前の続き。終わってないの」
私は正面を見たまま唇を尖らせた。
「喧嘩してんの?」
「違うわ。一方的に喧嘩を売られてるところ」
「森田が? お前なんかしたのか?」
林田は森田君を疑わない。私はくるりとその横顔を見る。
(あんたの所為なんだけど)
喉まで出かかった言葉を飲み込み「別に」と返した。林田はふぅんと顎を突き出す。
「正直、森田みたいな頭良い奴って何考えてるか分からねぇよな」
私はうんと頷いた。
(林田のことを好きだなんて想像もできなかったし)
好きな相手のために仕事をして、好きな相手のために別の相手と付き合う。それが彼のステータス。
静かにワイパーが動き出し、カクンとサイドブレーキが下ろされた。
「じゃあ出る」
バックミラー越しに林田と目が合ってしまい、慌てて視線を反らす。シャアアと水を切る音と共に、車は駐車場を出た。
最初のコメントを投稿しよう!