春待ちの木々

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「卒業、か。もう何年前だろ」  ラジオに合わせて呟かれた言葉に、頭の中で計算する。林田は私の答えを待たずに言葉を続けた。 「大学はまだ最近って感じがするんだよな。高校ってなるともう駄目だ」 「当たり前じゃない。大学よりも前なんだから」 「そりゃそうなんだけどさ。ブレザーとか着て、でっかいリュック背負ってた頃が懐かしいなって」 「部活の道具?」  林田はあははと笑う。 「そうそう。ジャージとかタオルとかめっちゃ詰め込んでた。あとは家と学校を往復するだけの教科書。俺、電車通学だったから、電車で食べる菓子パンとかも入ってた」  高校生の林田を想像する。茶髪には寝癖が付いてたり、でっかいリュックにはよく分からないキャラクターのキーホルダーがぶら下がっていたりするんだわ。そして沢山の友達と大きな声で話して、笑って。 (なんだか今と変わらないかも) 「ふふふ」  私の笑いに気付いて、林田は唇を尖らせる。 「あ、お前。勝手な想像で笑ってるな。そういう木下はどんな高校生だったんだよ?」 「私? 私は真面目だったわ。それに高校にしては珍しくセーラー服だったのよ」 「へぇ」 「襟に三本の白いラインが入ったザ、セーラー服。リボンの結び方に流行りがあってね、ちょこちょこ変えてた」  大きめのリボンに結んだり、小さくしたり。シュシュでアレンジとかもあった。この楽しさは男子には分かるまい。
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