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「お待たせ」
がちゃりと運転席のドアが開き、雨に濡れたスーツの腕が伸びてきた。その手から小さなペットボトルを受け取る。
「ありがとう」
「缶のやつとペットボトルのやつがあってさ。俺の独断と偏見でペットにした」
林田は白い歯を見せて、運転席に乗り込んできた。腕だけじゃなく髪も肩も濡れている。
(ハンカチは……)
ハンカチは後部座席に置いた鞄の中だった。
「風邪引くわ」
私は空いている右手を林田の肩に伸ばした。効果があるか分からないけれど、雨を払うように肩から腕を撫でる。ジャケットに染み込む前に多少は落とせれば良いけれど。
「結構濡れ…………!!」
撫でる手首を掴まれ反射的に顔を上げると、真っ直ぐな視線がそこにあった。怖いくらいに真剣な瞳に自分のそれを捕らえられ、息が止まる。
「ほんとに…………なよ」
掠れた声が苦しそうに聞こえて、私の胸まで苦しくなる。この車内は林田の匂いが濃すぎて空気が薄い。息が出来ない。
「やっぱり待てねぇよ」
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